家が紡ぐ物語 岡本太郎編 第3回


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旧岡本太郎邸を訪ねる――庭
▲岡本太郎(1911~1996)
画像提供:岡本太郎記念館

東京・南青山にある岡本太郎記念館は1954年から96年までの42年間、岡本太郎が暮らした自宅兼アトリエです。「太陽の塔」や「明日の神話」など代表作の構想が生まれたのも、パートナーである敏子との愛を育んだのも、この家でした。コンクリートブロックを積み上げた建物に凸型レンズの屋根を載せた建築は、今見ても斬新なもの。当時のままのサロンやアトリエ、そしてジャングルのような庭から、太郎のエネルギーがあふれ出しています。梅雨の晴れ間、青々と広がる空の下、旧岡本太郎邸(現・岡本太郎記念館)を訪れました。

 

生命力にあふれる植物と彫刻たち

▲たくさんの作品が置かれた庭
画像提供:岡本太郎記念館

旧館のサロンとアトリエをじっくりと眺めたら、庭に出てみましょう。

南国を感じさせる植物とたくさんの彫刻作品が共存する、ワイルドな庭。太郎は、自分の作品を身の回りに置くことを好まなかったそうですが、作品の数が増えるにつれて、庭にあふれ始めたそうです。これらの作品は、ほとんどが実際の作品のマケット(試作品)。緑濃い植物と生命力を競うかのごとく、生き生きと存在を主張しています。

庭の入り口左側にあるのは、「母の塔」。実物は高さ30mという巨大な作品で、川崎市の岡本太郎美術館に展示されています。「大地に深く根ざした巨木のたくましさ」と「ゆたかでふくよかな母のやさしさ」、「天空に向かって燃えさかる永遠の生命」が表現されているそう。

▲「母の塔」

茂みの中からこちらを見ているのは、野沢温泉にその実物が存在する「乙女」です。

▲「乙女」

「乙女」の隣にたたずみ、親しげにほほ笑みかけてくるのは「午後の日」。この作品は、多磨霊園にある太郎の墓にも墓碑として置かれ、多くの人々に親しまれています。

▲頬杖をついて微笑む姿がかわいらしい「午後の日」

名古屋の久国寺からの依頼で制作した梵鐘(*1)「歓喜」のマケットもこちらにあります。梵鐘の制作を岡本太郎に依頼しようと決めた経緯も気になるところです。そばにある木づちでたたいてみましょう。

▲「歓喜」

とぼけた顔をした「犬の植木鉢」も人気です。

▲「犬の植木鉢」

いったん門を出て、塀に沿って建物の左手に出ると、太郎自作の門が。

▲太郎らしさのあふれる門

シンプルなコンクリートブロックの壁に黒と赤が映えて、スタイリッシュな雰囲気をつくり出しています。知らなければ、見ずに帰ってしまいそうですね。

家が完成した当時、この庭はまだがらんどうだったそうです。太郎の回想を読んでみましょう。

「いざ建物が出来上ってしまうと、焼跡の瓦礫やガラクタの散乱した土地に、少くとも運動ができるようなスペースがほしかった。アトリエと書斎にかわるがわるとじこもって、頭や神経ばかり使っている仕事だから、ちょっとの時間でも外にとび出して、明朗に動きまわりたい。(中略)そこで何も工夫せず土地を平らにして芝生にした。ここで野天の食事もたのしめるし、バドミントンやキャッチボールのような軽いスポーツが出来る。利用価値は大きい」(岡本太郎記念館パンフレット収録「アクトする空間」より)

やはり、太郎にとって大切なのは、そこで落ち着くことよりも「動き回ること」だったようです。

かつて、この庭には太郎がかわいがっていたカラスが住んでいました。
「人に甘えてすりよってくるペットは嫌いだ」と断言していた太郎ですが、長野で彫刻の制作をしていたときに、作業員宿舎で飼われていた幼いカラスを気に入って譲り受け、共に暮らすことになったようです。群れを作らずに暮らしている孤高な姿に、自分自身を重ねていたのかもしれません。「犬の植木鉢」に止まるカラスの写真や、首にひもを付けたカラスと“散歩”する楽しそうな太郎の写真も残されています。

ちなみに、こちらの記念館は写真撮影自由、庭にある作品は実際に触れることもできます。
「触発するためなら今ある資料がすり減ったとしても構いません。守りたいのは作品そのものではなく太郎の精神なのです」(『カーサ ブルータス特別編集 新説・あなたの知らない岡本太郎』より)
敏子の甥(おい)であり、当記念館の館長を務める平野暁臣さんは、そう語っています。この記念館にここまで生々しく太郎の気配が残っているのは、このような理念の下に運営されているからなのでしょう。


*1:寺院の釣り鐘

 

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参考資料
岡本太郎記念館ホームページ http://www.taro-okamoto.or.jp
坂倉建築研究所ホームページ http://www.sakakura.co.jp
岡本太郎記念館パンフレット収録・エッセイ「アクトする空間」
『恋愛芸術家』岡本敏子著(マガジンハウス)
『岡本太郎の遊ぶ心』岡本敏子著(講談社)
『CasaBRUTUS特別編集 新説・あなたの知らない岡本太郎』(マガジンハウス)
『もっと知りたい岡本太郎 生涯と作品』佐々木秀憲著(東京美術)
『太郎さんとカラス』岡本敏子著(アートン)


取材協力:岡本太郎記念館
所在地:東京都港区南青山6-1-19
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで) 入館料:一般620円、小学生310円
休館日:火曜日(祝日の場合は開館)、年末年始および保守点検日
http://www.taro-okamoto.or.jp/

M0000OG1829(2017.10新)

棚澤明子

棚澤明子

フランス語翻訳者を経てフリーライターに。ライフスタイルや食、スポーツに関する取材・インタビューなどを中心に、編集・執筆を手がける。“親子で鉄道を楽しもう”というテーマで『子鉄&ママ鉄の電車お出かけガイド』(2011年・枻出版社)、『子鉄&ママ鉄の電車を見よう!電車に乗ろう!』(2016年・プレジデント社)などを出版。TVやラジオ、トークショーに多数出演。ライフワーク的な仕事として、東日本大震災で被災した母親たちの声をまとめた『福島のお母さん、聞かせて、その小さな声を』(2016年・彩流社)を出版。