家が紡ぐ物語 岡本太郎編 第2回


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旧岡本太郎邸を訪ねる――アトリエ
▲岡本太郎(1911~1996)
画像提供:岡本太郎記念館

東京・南青山にある岡本太郎記念館は1954年から96年までの42年間、岡本太郎が暮らした自宅兼アトリエです。「太陽の塔」や「明日の神話」など代表作の構想が生まれたのも、パートナーである敏子との愛を育んだのも、この家でした。コンクリートブロックを積み上げた建物に凸型レンズの屋根を載せた建築は、今見ても斬新なもの。当時のままのサロンやアトリエ、そしてジャングルのような庭から、太郎のエネルギーがあふれ出しています。梅雨の晴れ間、青々と広がる空の下、旧岡本太郎邸(現・岡本太郎記念館)を訪れました。

 

創作エネルギーがほとばしるアトリエに圧倒される

▲太郎のアトリエ

サロンの隣は、絵画のためのアトリエです。

床には、飛び散った絵の具の染みや、大きなキャンバスを引きずった跡のような傷がそのまま残っていました。今の今まで太郎が作業をしていたような気配が感じられます。

太郎は、アトリエへの思いを次のように語っています。

「私は自分のアトリエに好みなんかない。なるべくガランとした、ヌートラなシェルターがほしいだけだ。ならば何も無いのが一番良いのだが、そうもいかないから、最低限、雨をしのぐ屋根をかけて、まわりを囲うそっけない壁があれば十分」(岡本太郎記念館パンフレット収録「アクトする空間」より)

実際、設計に当たって太郎が出したリクエストは、大作を作れるように天井が高く、広い場所を確保することと、たっぷりと自然光が採れるような窓を北側に作ること、という2点だけでした。そして、出来上がったアトリエを、太郎は非常に気に入っていました。

このアトリエが存在したからこそ生まれた作品も、多々あったのでしょう。

机の上の筆などは、全て太郎が使っていたままの状態で保存されています。お酒が好きだったという太郎ですが、並んだお酒の瓶に入っているのは油絵用のオイルです。同じ種類の刷毛(はけ)を3本ほど束ねたものは、勢いのある線を描くために作ったもの。

▲当時のまま保存してある絵筆類
▲作品制作時に使用した大きな刷毛

棚には、たくさんのキャンバスが保管されています。完成作品の多くは美術館などに寄贈され、ここにあるのはエスキース(*1)と制作途中の作品だそう。

▲アトリエの様子

アトリエの片隅には、与謝野晶子が持っていたというスタインベルグのピアノが置かれています。これは与謝野家から岡本家へ贈られたものです。

実は、太郎のピアノの腕前はプロ並みでした。太郎が演奏したショパンの『雨だれ』を聴いた音楽評論家の鍵谷幸信は、「そこらへんのピアニストなんか足元にも及ばない風格と気品のある演奏ぶり」(『岡本太郎の遊ぶ心』より)と評したそうです。

▲アトリエに置かれたピアノ。奥には「リボンの子」が見える

アトリエは、大きなキャンバスでも描きやすいように、天井が吹き抜けになっています。2階には書斎があり、アトリエとは階段で直接行き来できます。太郎は、1階で彫刻をしたり絵を描いたり、疲れると上に上がって書斎にこもったり、そして飽きるとまた下りてきてピアノを弾いたり……と、上に下に動き回って活動していたようです。

▲アトリエの吹き抜けになった天井

太郎自身の文章からも、太郎が求めていたのは「落ち着いて創作活動にふけるための場所」というよりも、「動き回る場」だったことがよく分かります。この家の設計は、そんな太郎の性質に見事にマッチしたものだったのでしょう。

「大中小、三つのアトリエ、そして彫刻のと、仕事場がいくつも私を待ち受けている。それぞれ同時に書斎でもある。絵を描き、疲れると原稿に向う。それで気が鬱すると、階段を駈けおりて、猛烈に彫刻に取り組む。一日中ぐるぐる駈け廻っているわけだ」(前出「アクトする空間」より)という言葉を残しています。


*1:スケッチや下絵、素案などのこと

 

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参考資料
岡本太郎記念館ホームページ http://www.taro-okamoto.or.jp
坂倉建築研究所ホームページ http://www.sakakura.co.jp
岡本太郎記念館パンフレット収録・エッセイ「アクトする空間」
『恋愛芸術家』岡本敏子著(マガジンハウス)
『岡本太郎の遊ぶ心』岡本敏子著(講談社)
『CasaBRUTUS特別編集 新説・あなたの知らない岡本太郎』(マガジンハウス)
『もっと知りたい岡本太郎 生涯と作品』佐々木秀憲著(東京美術)
『太郎さんとカラス』岡本敏子著(アートン)


取材協力:岡本太郎記念館
所在地:東京都港区南青山6-1-19
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで) 入館料:一般620円、小学生310円
休館日:火曜日(祝日の場合は開館)、年末年始および保守点検日
http://www.taro-okamoto.or.jp/

M0000OG1828(2017.10新)

棚澤明子

棚澤明子

フランス語翻訳者を経てフリーライターに。ライフスタイルや食、スポーツに関する取材・インタビューなどを中心に、編集・執筆を手がける。“親子で鉄道を楽しもう”というテーマで『子鉄&ママ鉄の電車お出かけガイド』(2011年・枻出版社)、『子鉄&ママ鉄の電車を見よう!電車に乗ろう!』(2016年・プレジデント社)などを出版。TVやラジオ、トークショーに多数出演。ライフワーク的な仕事として、東日本大震災で被災した母親たちの声をまとめた『福島のお母さん、聞かせて、その小さな声を』(2016年・彩流社)を出版。