イェンス・イェンセンが語る(後編)「毎日の幸福度は、70点くらいがちょうどいい」


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ボクとワタシの「幸福論」 第22話

「幸せだから笑うのではない。むしろ笑うから幸せなのだ」
こんな味わい深い言葉を新聞にプロポ(短めのコラム)として、毎日のように書き残した哲学者アラン。
そのプロポから幸福について書いた言葉だけを集めたものが、『幸福論』です。
「幸せ」をテーマに、さまざまな分野に取り組む人が、その人の『幸福論』を語ってくれる連載です。

プロポ22 「運命」より
何はともあれ出発することだ、
どこへ行くかはそれから決めればよい

日経BP社『幸福論』より


動き出せば、幸福の“種”が近づいてくる

自遊業/イェンス イェンセン
 

別荘とは異なる、小さな小屋付きの庭の効能


自宅に庭を持てないデンマークの人たちが、週末や夏休みの時期を楽しむための小さな小屋付きの庭、「コロニヘーヴ」を日本に紹介する活動を続けています。具体的には、小田原の江之浦に、自分たちで作った「エノコロ」と名付けたコロニヘーヴがあって、月1回(冬季はお休み)希望者と遊ぶオープンデーを企画・運営したり、イベントで「コロニヘーヴとは?」といったテーマで講演をさせてもらったり。まだ企画段階だけど、コロニヘーヴの本の出版も進めています。

ただこれは、僕にとっては仕事というより、遊びや趣味の延長みたいな感じなんです(笑)。東京で暮らしていたときに、日本にも同じような場所がないかなあと探し始めたら、レンタル菜園とか市民農園は見つかったんだけど、それらはコロニヘーヴとはちょっと違う。僕は、家族や友達と1泊か2泊して、コーヒーを飲みながらたき火をしたり、庭で使えるような家具を自作したりとか、ちょっとワイルドに使える場所が欲しかった。欲しいものがないのなら、自分たちで作るしかないでしょ。

ミカン畑の中の土地を提供してもらって、小屋の骨組みだけ大工さんにお願いし、あとは全て自作です。「エノコロ」が完成したのが2007年だから、ちょうど10年前ですね。今の家をリフォームする際の事前準備と勉強にもなったし、週末や休日にここに来て自然とたわむれることで、東京生活で疲れた心をリフレッシュすることができました。逆に今は、山、海など自然環境がたっぷりある鎌倉に住んでいるから、エノコロにはあまり行かなくなっちゃった(笑)。

都心で暮らしていると、四季の移ろいを感じること、緑などの自然に接する機会が少ないですよね。人間も動物なのだから、自然の中で過ごすのが自然なはずだし、その方がやっぱり心地いい。だからといって、いきなり田舎暮らしをするのは難しいけど、自宅からさほど遠くない場所に自由に使える庭と小屋があれば、週末や休みの日にそこに行くことでリフレッシュできる。ぜひ一人でも多くの人たちに、コロニヘーヴを作ってもらって、その楽しみ方と効用を体感してほしいと思っています。

当たり前に続いていく暮らしに満足できること


「なにはともあれ出発することだ。どこへ行くかはそれから決めればよい」。アランの『幸福論』No.22「運命」の中にある、この一節に共感しました。僕が日本に憧れたきっかけは、12歳の頃にテレビで観た『将軍 SHOGUN』という時代劇です。それから日本に行ってみたいと思うようになって、実際に来日して妻に出会い結婚したことで、今の僕がある。もちろん、これまで悩み考えた末に、結局やらなかったことは、いくつもあります。でも先が見えないけど、行動したことで分かってくることって多いし、やりながら勉強すればなんとか結果が付いてくるものなんですよ。

自分ではいろんなことに挑戦しているつもりだけど、まだまだやれるかな。後になってもったいなかったと思わないためにも、やっぱり動きだすことはすごく大事。生まれ故郷のデンマークを離れて、違う国に住むことを決めたことが、僕の人生の大きな転機になったことは間違いありません。さっきお話ししたヒュッゲやコロニヘーヴもそうですが、当たり前に思っていたことを外から見ることで新たな発見につながったし、お互いの国の文化や人の気持ちを比較することもできる。とてもすてきな体験をさせてもらっているなあと思います。

僕は今の家族との暮らしや仕事にけっこう満足しているので(笑)、幸せを探すために本を必要としたことがないし、『幸福論』を読んだのも今回が初めてです。そもそも幸福感って、瞬間的に発生することが多いと思うんですよ。例えば宝くじが当たって、「わー!」って気持ちになったときとか? でも、その気持ちがずっと続くかというとそんなことはない。本当の幸せって、毎日いろんなことが起こるけど、当たり前に続いていく暮らしに満足できること――僕はそうとらえています。

もちろん、今の人生に100%満足しているかというと、そうではなくて、子どもと一緒に遊ぶ時間をもっと増やしたいし、毎回もっといい原稿を書きたい。例えば今日の幸福度に点数をつけるとしたら、70点くらいかな? でも、ずっと100点を維持し続けるのは無理(笑)。平均は60点とか70点でいい。多少の苦労があるときの方が人は動きだすし、新しい発見を探すための努力をしますからね。自分は幸せ過ぎだと感じたら、注意した方がいいかもしれません(笑)。

何かの予定や時間にせかされていないときが、最近は一番幸せかな。目の前のことをしっかり味わい、楽しむことができますから。例えば仕事を全て片付けてハイキングに出掛けると、いつも以上に自然をきちんと感じることができて最高に気持ちいい。でも、予定がまったくない状態って、ちょっと不安になりますよね? こんなに暇で大丈夫かな……って。僕はそんな1日を手に入れたことに素直に感謝した上で、あえて思い切り楽しむようにしています。そうしておかないと、次に忙しくなったタイミングで、絶対に後悔しちゃうから(笑)。

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語り手:イェンス イェンセン
1977年、デンマーク生まれ。ロンドン大学で日本語と言語学を専攻し、2002年に来日。デンマーク王国大使館に勤めるかたわらデンマーク式のコミュニティガーデン「コロニヘーヴ」や、料理、DIY を楽しむスローライフの提案・発信を続ける。14年の春、6年間の大使館勤務にピリオドをつけてフリーランスに。『Wallpaper*』や『Discover Japan』など、ライフスタイル誌やカルチャー誌を中心にエディター兼ライターとしての活動をスタート。株式会社デンマークヨーグルト代表取締役社長、日本コロニヘーヴ協会・代表理事も務めている。著書に『イェンセン家のマンションDIY』、『イェンセン家のホームディナー』(共に文藝春秋)などがある。

M0000OG2637(2018.03新)

スマイルすまい編集部

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