イェンス・イェンセンが語る(前編)「同じバランスで睡眠、仕事、自分の時間をもち、心豊かに」


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ボクとワタシの「幸福論」 第21話

「幸せだから笑うのではない。むしろ笑うから幸せなのだ」
こんな味わい深い言葉を新聞にプロポ(短めのコラム)として、毎日のように書き残した哲学者アラン。
そのプロポから幸福について書いた言葉だけを集めたものが、『幸福論』です。
「幸せ」をテーマに、さまざまな分野に取り組む人が、その人の『幸福論』を語ってくれる連載です。

プロポ22 「運命」より
何はともあれ出発することだ、
どこへ行くかはそれから決めればよい

日経BP社『幸福論』より


「HYGGE(ヒュッゲ)」な場所・仲間・時間をつくろう

自遊業/イェンス イェンセン
 

日本の住宅事情はとてもラッキー


デンマークで生まれ育った僕が日本で暮らし始めて、15年が過ぎました。日本人の妻(マリコさん)に出会って結婚し、2人の子どもにも恵まれ、とても穏やかで幸せな日々を送ることができています。今は、主に本を書いたり、雑誌の編集、記事の執筆をするなどフリーランス的な働き方をしていますが、4年前までは東京に住み、代官山にあるデンマーク王国大使館に勤務していました。

デンマーク人は、自宅で家族と過ごす時間、そして緑のある生活を大切にします。そんな国で育った僕と、僕たち家族が自然豊かな生活環境を優先し、便利な東京の暮らしを捨て、今住んでいる鎌倉の家に引っ越してきたのが約4年前。上の子どもがちょうど小学校に上がるタイミングでした。自宅がある場所は、鎌倉駅ほどの中心地の騒がしさが届かない、静かな山の上です。引っ越してくる3年くらい前に、築40年くらいの古い家付きの土地を購入し、休みの日に通いながら少しずつリノベーションしていきました。

水道・電気とかインフラ工事以外は、ほぼ僕の手仕事です。妻と、少しだけ子どもたちにも手伝ってもらいながらね。かなり傷んでいた古民家を改修前に買ったので、まず壁を全部剥がして断熱材を入れ、天井、床、壁など見えるところはほとんど作り直しています。デンマークでは義務教育の課程に木工の授業があって、僕のお父さんはその教科の先生でした。国の自宅の庭に設置された木工小屋には、道具と材料がたくさんそろえられていて、小さい頃から僕も、物作りを楽しんでいたんですよ。

デンマークでは、新築の家を買う人より、丈夫に造られた古い家を買って、コツコツと自分たちでリノベーションしていく人の方が断然多いんですね。そのやり方で住む場所を探していた僕たちにとって、日本の住宅事情はとてもラッキー。この国の住宅寿命は平均で27年。上物である住宅の価値はすでにゼロ以下だったので、土地代だけでこんなにすてきな家に住めるようになったというわけ(笑)。そう考えると、ものすごくラッキーでしょう。

時間の使い方「8・8・8」の法則で心を豊かに


毎朝だいたい6時くらいに起床します。朝ご飯を作って学校に行く子どもたちを見送った後、庭で飼っている鶏の世話をして、メールのやり取りや原稿執筆など、基本的に自宅で仕事をすることが多いです。打ち合わせで東京に出向くこともありますが、お昼前にやらなきゃいけない仕事が終わっちゃって(笑)、家のDIYをしたり、楽器を奏でたり、料理をしたり、あとたまに鎌倉の山々をハイキングしたり。平日も、けっこう趣味の時間を満喫していますよ。そして夜は、家族みんなそろって会話しながら夕食を楽しみます。

ここ数年、「HYGGE(ヒュッゲ)」というデンマーク語が注目されていますね。和訳すると「心地よい時間の流れ」という意味でしょうか。温かくて安心できる場所で、家族や友達と話したり、お茶を飲んだりするシチュエーションを指します。元から日本にもヒュッゲな状況はたくさんあって、お鍋を囲んで食事をしたり、お正月に歌番組をみんなで観たり、それらは全てヒュッゲ。今の人たちはいろんなことが忙し過ぎて、昔の日本の人たちが大事にしていた幸福な時間の使い方がなかなかできないでいる。そんな今だから、ヒュッゲという外国から来た言葉が刺さったのだと思います。

1日のうち、「8時間は睡眠、8時間は仕事、8時間は自分の時間」。デンマーク人は、このバランスをとても大切にします。来日して、日本人が長時間働くことに驚きました。なんだか会社に人生の全てをゆだねているような……。デンマークは社会保障がかなり充実しているため、たとえ会社からクビにされても、次の仕事に就けるまで国が厚い失業給付をしてくれます。また、教育費、医療費は全額無料です。生活の不安が少ないからか、多くの人が給料やステイタスの高さよりも、自分が好きな仕事を選んでいるという印象があります。

デンマークがさまざまな調査で「世界一幸福度の高い国」に選ばれている理由の一つに、自分の時間を自分でコントロールしやすいことがあると思う。ただし、自由には責任が付きもの。仕事で与えられる責任は重いし、また、消費税が25%と税金も高いです。でも、そういった仕組みは国民が自分たちの責任で選んだ結果。デンマーク人は、なんでもしっかり議論して解決しようとするし、選挙の投票率は80%を超えています。そこも日本との大きな違いですね。

日本の選挙の投票率はほとんど50%以下でしょう。みんな高い税金を払っているのに、その使い道を積極的に知ろうとしない。本当に不思議です。選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられましたが、例えば65歳以上の人の選挙権をなくすとか、これからの日本をつくっていく若者たちの意見をもっと抽出できる制度に変えていった方がいい。だって、日本は本当に素晴らしい国。デンマークから来た僕からすれば「天国か!」と思えるほど気候がいいし、おいしい食材もたくさんある(笑)。一人でも多くの人が、たくさん議論するようになって、投票率が上がれば、日本は今よりもずっと“幸福な国”になれるのにね。

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語り手:イェンス イェンセン
1977年、デンマーク生まれ。ロンドン大学で日本語と言語学を専攻し、2002年に来日。デンマーク王国大使館に勤めるかたわらデンマーク式のコミュニティガーデン「コロニヘーヴ」や、料理、DIY を楽しむスローライフの提案・発信を続ける。14年の春、6年間の大使館勤務にピリオドをつけてフリーランスに。『Wallpaper*』や『Discover Japan』など、ライフスタイル誌やカルチャー誌を中心にエディター兼ライターとしての活動をスタート。株式会社デンマークヨーグルト代表取締役社長、日本コロニヘーヴ協会・代表理事も務めている。著書に『イェンセン家のマンションDIY』、『イェンセン家のホームディナー』(共に文藝春秋)などがある。

M0000OG2636(2018.03新)

スマイルすまい編集部

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