料理研究家 パン・ウェイが語る(前編) 「幸福を呼び込む薬膳料理」


第16話はこちら ┃ 第18話はこちら

ボクとワタシの「幸福論」 第17話

「幸せだから笑うのではない。むしろ笑うから幸せなのだ」
こんな味わい深い言葉を新聞にプロポ(短めのコラム)として、毎日のように書き残した哲学者アラン。
そのプロポから幸福について書いた言葉だけを集めたものが、『幸福論』です。
「幸せ」をテーマに、さまざまな分野に取り組む人が、その人の『幸福論』を語ってくれる連載です。
 

プロポ70 「名馬 忍耐」 より
人生をとことん楽しむ

ディスカヴァー・トゥエンティワン 『アランの幸福論』より

 

料理研究家 パン・ウェイさん
 

来世でも料理研究家になりたい!

通訳・コーディネーターとして働いていた頃、友人に頼まれて自宅で自作の中国料理を振る舞ったことが、料理研究家を志したきっかけです。おいしい料理を食べてもらい、中国料理のファンが増えてくれたら――当時はそんな単純な気持ちだったと思います。すると、その友人たちが、「翌日、驚くほど体調が良かった!」「作り方を教えて!」と、すごく喜んでくれたんですね。

自分ができることで、みんなが笑顔になる。これって素晴らしいこと。じゃあ、もっとたくさん笑顔を増やすためにはどうすればいいかと考え、おばあちゃんに教えてもらった薬膳料理をお教えすることに。薬膳って難しそう? いえいえ、季節に応じた旬の食材で体調を整え、健康を維持するという、至って簡単なもの。結果、自宅から始まった料理教室の評判がどんどん広がって、いつの間にか本業になっていたというわけです。

中国の北京で生まれ育ちましたが、父は中国人と日本人の、母は中国人とタイ人のハーフ。私には、中国、タイ、日本の血が流れています。小さな頃からいろんな文化に触れてきましたから、普通の人と比べて国の概念が薄いのでしょうね。お教えしている料理のベースは中国料理ですけど、和食や洋食のいいところもどんどん取り入れます。どんな料理であっても、おいしくて、体に良ければいいのです(笑)。

後は、生徒さんは基本、一般家庭の方々なので、スーパーで入手できない食材を使ったり、調理方法があまり難しいものとか、いろんな道具や設備がないと作れないものは、なしです。それでは習っても意味がないでしょう。自宅で誰でも日常的に作れて、家族のみんなから喜んでもらえる、そして、その料理を食べることで健康になる、元気が出る、笑顔になる。私が伝えたいのはそんな料理です。

食いしん坊の私にとって、この仕事はまさに天職。来世でも絶対に料理研究家になりたい! こんなに幸せでいいのでしょうか(笑)。そんな私を生んでくれた両親と、料理を含めていろんなことを教えてくれたおばあちゃんには本当に感謝です。教室運営に、テレビのお仕事、本の執筆、講演など、毎日本当に目が回るような忙しさですが、つらいと思ったことは一度もありません。

今日という一日は、二度と来ません。どうすれば今日、最高においしいものを食べさせてあげられるか?  さて、自分は何を食べようか? 一日の過ごし方を考えるだけで、ワクワクしちゃいます。毎晩、就寝前は罪悪感ですよ。あれもしたかった、これもできなかったって。1日24時間じゃまったく足りません。

 

どうせする苦労なら、笑ってやった方がいい

ありがたいことに、東京の代々木公園駅近くで開催している料理教室はとても人気で、予定を公表するとすぐに満席になってしまいます。お断りするときは本当に申し訳ないなぁと。いろいろ考え一生懸命やっているのですが、時間だけではなく、体も足りない。母に言いました。「私の分身が欲しい」って。母は「さすがにもう産めない」って(笑)。孫悟空みたいに、髪の毛から自分のクローンが作れたらいいのに。本気でそう思います。

そもそも自分はなぜこんなに必死で毎日やっているんだろう? 考えてみたのですが、やはり教室に来てくれる皆さんの笑顔が見たいから。せっかくのご縁でお会いできたわけですから、今日の一食で元気にして差し上げて、最後は笑顔で帰っていただきたいじゃないですか。

大変な毎日はウエルカムです。おばあちゃんがよく言っていました。「一生でする苦労の量は同じ。どうせなら早いうちに苦労した方が、年を取ってからするより楽なはず」って。実はこれは食生活と体調の関係に当てはまります。10代や20代は少々食事に手を抜いても、若さで体はごまかせたりします。でも30代、40代になるとそのつけが出てきます。若い頃から面倒でも食事に気を付けていれば、年を取ってからも良い状態で過ごすことができるはずです。

もう一つおばあちゃんから教わった大切なことが笑うこと。「泣いていたって、苦労も忍耐も避けることはできません。いつも笑っていなさい」って。ことわざにもあるでしょう。「笑う門には福来る」。にぎやかなところに幸福が訪れる。みんなが笑顔だと幸せになれる。本当にその通りだと思います。そうやって教えられ、育ててもらったからか、ものすごく忙しかったり、大変だったりしてもいつも明るくプラスに考えます。「なんでこんなに忙しいの? でも、こんなにつらい経験は二度とできないかもしれない。だったら思い切ってもっと忙しくしちゃおう!」とかね(笑)。とにかく、どんなときであっても、笑って楽しむことを心掛けています。

アランの『幸福論』のプロポ「忍耐」に書かれている、「人生はわくわくする楽しいことにあふれている。お金も一切かからない。目を開け、楽しみはそこにある」。そう、私たちに与えられたこの人生は一回だけ。楽しまないともったいないですよ。「人生は一枚の白い紙のようなもの。何も描かず真っ白できれいなままの紙もいいけれど、何が何だか分からないくらい描き込まれた紙の方が楽しくて面白い」。これもおばあちゃんの教えです。

後者の紙には苦労や涙がたくさん描かれているかもしれません。でも、最期の日が来て、自分がぐちゃぐちゃに描き続けた人生を見返した私は、きっとすごく満足すると思うのです。紙が汚れることなんて恐れずに、やりたいことはどんどんやった方がいいです。私は後悔するのが大嫌い。やらないよりもやって失敗した方が、人生は絶対に面白くなりますよ。

 

第16話はこちら ┃ 第18話はこちら

語り手:パン・ウェイ
中国・北京生まれ。季節と体をテーマとし、四季に合った食生活を提唱。現在は東京・代々木公園スタジオにて料理教室を主宰。『きょうの料理』(NHK)などのテレビ出演や著作活動、講演会のほか、企業向けのレシピ開発やコンサルタントとしても活躍中。『にんにく・しょうが・ねぎ・とうがらしの薬膳レシピ―たっぷり薬味で元気とキレイ!』(農山漁村文化協会)、『中華小菓子:身体がよろこぶ小さくてかわいい甘味の楽しみ』、『毎日からだを調える中華スープ』(共に誠文堂新光社)など著書多数。

M0000OG1825(2017.10新)

スマイルすまい編集部

スマイルすまい編集部

暮らしがちょっとすてきになるアイデアや、住まい選びのヒントになるような記事を、心を込めてお届けしている編集部です。 ふとした時に思い出してもらえる、気軽に訪れてほんの少し幸せな気分になってもらえる、そんなサイトを目指しています。