和紙作家 堀木エリ子が語る(前編) 「伝統を未来に、革新を伝統に」


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ボクとワタシの「幸福論」 第11話

「幸せだから笑うのではない。むしろ笑うから幸せなのだ」
こんな味わい深い言葉を新聞にプロポ(短めのコラム)として、毎日のように書き残した哲学者アラン。
そのプロポから幸福について書いた言葉だけを集めたものが、『幸福論』です。
「幸せ」をテーマに、さまざまな分野に取り組む人が、その人の『幸福論』を語ってくれる連載です。
 

プロポ50 「制作」より
「行動すれば未来が始まる」

中公クラシックス『幸福論』より


「手漉(す)き和紙」の尊い営みを未来につなぐ
 

和紙作家 堀木エリ子さん
 

過去の革新が育った姿が伝統と呼ばれる


私は高校を卒業して4年間、銀行で働いた後、まったくの未経験、まさに徒手空拳で手漉き和紙の世界に飛び込みました。和紙作りの技術、ビジネスの仕組み、物事の考え方などを、書籍と人から学ぶしかなかったのです。アランの『幸福論』は、24歳で起業した頃、初めて手に取ったと記憶しています。文章は多少難解ですが、アランが言っていることは一つ。それは、「どんな事柄であっても深く考える」ということ。当時はそんな受け取り方をしたと思います。私も今、口を酸っぱくしてスタッフに「“有意注意”で物事に当たろう」と伝えています。

私たちの仕事を一言で説明すると、“長靴”から“地下足袋”まで。つまり、お客さまのご要望をお聞きしながらデザインを考えた後に、“長靴”を履いて職人さんと一緒に和紙を漉き、それに機能・用途を与え、ヘルメットと“地下足袋”を身に着け、足場に登って指定された現場に搬入する――。これら一連のプロセス全てを自分たちでこなします。そして、目指している方向性は大きく二つ。一つは廃れつつあった手漉き和紙の伝統を未来につなぐこと、もう一つは、仕事の中で新しい革新を起こして、それを未来の伝統に変えていくこと。そんな思いを持って、伝統産業である和紙と向き合っています。

最初は、新しいことを提案するたびに、職人さんたちから「そんなことはできるわけがない」と言われ続けていました。でも、私はそうではないと。和紙作りには1500年続いてきた歴史があって、今、伝統といわれていますが、1500年前のそれは世の中の革新だったはずです。実は、伝統と革新は対極の言葉ではなくて、革新が育った姿が伝統と呼ばれていることが分かります。だから私たちは、体力的につらい手漉き和紙の製作工程を少しでも楽にしたり、あるいは時代のニーズに合った新しいものづくりの手法を開発したり。そうやって、さまざまな小さな革新を積み重ねながら、作り手となる後継者と、和紙を使ってくれるお客さまを増やしているのです。
 

悩んだときには原点に戻って考える


手漉き和紙の特徴は、長く使っても強度が衰えない、長く使うほど色合いや風合いが増すといった点にあります。多くの人が使っている和紙のレターセットやご祝儀袋などの消耗品は、大量に作ることができる機械漉きの方が安くて優秀です。では、手漉き和紙はどこで生き残っていけるのかと考えると、長く使ってもらえる建築やインテリアの領域であるという“解”が見えてきました。そして今、お客さまからのご要望は、住空間、商業空間、公共空間など、どんどん広がっています。故に私たちの仕事は、和紙という商品をお納めするのではなく、和紙のある環境を作るお手伝いであると考えています。

私自身は、例えばこんなものがあったら便利だろうとか、魂の叫びを反映させた自分の作品を作りたいとは一切考えていません。全ての仕事と革新は、お客さまのご要望から生まれています。例えば、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞された建築家・伊東豊雄さんから、「卵の形をした和紙のランプシェードを作ってほしい」と依頼されたときのことです。最初は針金などで骨を組んでその上に和紙を張る、提灯のようなものを作ってみたのですが、それなら提灯職人さんの方がうまいですよね。これでは、私が作る意味はありません。そうやって悩みながら、ゆで卵を眺めていたときに気付いたのです。「卵には骨はない」ということに。

後に特許も取得した、三次元構造の立体和紙作りの技術は、このときに生まれたものです。具体的な製造工程はお話しできませんが、基本の原理自体は従来の和紙作りと同じ。もちろん、使う道具や、作り方の発想はオリジナルですが。悩んだときには原点に戻って考えてみる。そして、「できない」という選択肢を捨て、「どうしたらできるか」だけを考える。振り返ってみると、私はいつもそうやってお客さまのご要望にお応えし、自分にしかできない“革新”を作ってきました。そして新しい技術は注目され、まねされることで、業界が活性化していきます。デザインまでそっくりの、“なんちゃって堀木”的な商品を見つけたときはどうかと思いますけど(笑)。伝統を未来につなげ、革新を伝統に変える。まだまだ道半ばですが、今のところ狙い通りの仕事ができているのではないでしょうか。
 

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語り手:堀木エリ子
1962年、京都府生まれ。高校卒業後、4年間の銀行員生活を経て、和紙商品開発会社へ転職。87年、SHIMUSを設立。2000年、(株)堀木エリ子&アソシエイツを設立。成田国際空港第一ターミナル北ウイング到着ロビーなど公共施設、ホテル、デパートなど多数の建築空間で作品を展開。米国カーネギーホールでの「ヨーヨー・マ・シルクロードプロジェクト」の舞台美術など海外でも活躍。日本建築美術工芸協会賞、インテリアプランニング国土交通大臣賞、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003、日本現代藝術奨励賞など多数受賞。近著に『挑戦のススメ』(ディスカヴァー)がある。

M0000OG1733(2017.08新)

スマイルすまい編集部

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