割れてしまった食器に再び命を吹き込む その② 艶やかな漆でコーティングする


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手づくりの楽しみ 金継ぎ編 vol.2

金継ぎ(きんつぎ)とは、破損した器を漆で接着し、金粉などを使って装飾する日本独自の修復方法。金繕い(きんつくろい)とも呼ばれます。茶の湯が盛んになった室町時代に始まったといわれますが、近年になって、物を大切に使い続ける精神が見直されてきたこと、また、漆の代わりに市販の接着剤を使う簡易的な方法も登場したことで、身近な修繕技術として注目を集めています。

今回、「手づくり部員」が訪れたのは、金継ぎ作家・漆芸家の深澤勇人さんのアトリエ。初心者でも簡単に体験できる「簡漆金継ぎ」に挑戦してきました。3回シリーズの2回目は、接着した箇所に漆を塗ることころまでをご紹介します。

【手づくり部とは】
ハンドメイドやDIY好きのスマイルすまい編集部員が集まってできた、手づくり大好き集団。毎号、記事を通して「手づくりの楽しみや、自分で作ったものを使う幸せ」を皆さまにお伝えしていきたいと思います。

日本の歴史に根付いた、漆を使った修復技術

手づくり部 前回の作業では、接着剤で補修するところまで行いました。今回は、いよいよ漆を塗る作業ですね。

深澤さん はい。本漆を使いますから慎重に。かぶれるといけないので、手袋を使用してください。

手づくり部 先生はかぶれないのですか?

深澤さん 私は、皮膚が慣れてしまったのか、かぶれることはめったにありません。まったくかぶれない人もいれば、猛烈なかゆみや腫れに悩まされる人もいるなど、人によって漆との相性があるようです。もし漆に直接触れてしまったら、植物油などで拭き取り、その後、せっけんで油分を洗い流すなどの対応をしてください。

手づくり部 はい。でも、かぶれるリスクを冒してまで、日本ではなぜ漆を使った工芸が発展したのでしょう?

深澤さん そもそも、漆には接着剤としての優れた働きがあり、壊れた器を漆で継ぐ修理自体は縄文時代から行われていることが判明しています。それが、室町時代になり、茶の湯が盛んになると、破損した希少で高価な器を、漆で接着した上で金で装飾するという技法が生まれました。修繕といえば、普通は傷を隠すもの。それをあえて強調するという、他にはない独自の文化だと思います。

手づくり部 実用と工芸が融合したのですね。先生自身は漆のどのようなところに引かれたのですか?

深澤さん まずは、見た目の艶やかさです。漆は塗る回数によって表情を変えていきますが、3度塗りくらいからふっくらとしてくる。内から外へと張るようなところに生命力さえ感じます。

手づくり部 独特の質感がありますよね。

深澤さん それに、前回も少し触れましたが、漆というのは手間暇がかかります。一回塗ったら乾くのに数日かかるため、自分のペースで作業を進めることができません。時にイライラもしますが、自分の都合はいったん横に置いて、相手のペースに合わせるということも、今の社会で大切なことだと考えています。

手づくり部 本当にそう思います。ところで、先生の作品の中には、変わった絵柄の物がありますよね。これなんて、ヒビの部分が植物の茎になっています。隣のお皿の縁に描かれているのはテントウ虫ですね。

深澤さん 単なる修繕で終わらせず、自由な発想でデザインを施し、新たな価値を付加してよみがえらせるところも、金継ぎの魅力です。

手づくり部 こちらは、何ですか? 複数のお皿をパッチワークのように組み合わせてありますね。

深澤さん はい。「呼び継ぎ」といって、異なる器を継いでいます。一つ一つの器としては再生できないけれど、それらを合わせて、新たな命を吹き込んでいます。

手づくり部 そんなこともできるのですね。もっといろいろなことに挑戦したくなりました。
 

接着剤やパテを使って補修開始

深澤さん その前に、作業を続けないといけませんね。

手づくり部 そうでした。漆を塗るところからですね。

深澤さん はい。こちらのチューブから漆を絞り出してください。

手づくり部 鮮やかな朱色ですね。

深澤さん 漆は、やや黒ずんだ色をしていますが、顔料を加えることで、色にバリエーションが出ます。今回、朱色を使うのは、金を蒔(ま)いた時に発色が良くなるからです。

手づくり部 そういうことなのですね。

深澤さん では、筆に適量を含ませて、パテの部分を完全に覆うように塗ってください。ポイントは、あまり厚く塗らないこと。塗り過ぎると、この写真のように「縮み」という現象が起こってしまいます。

手づくり部 分かりました。それにしても、パテの端の部分を塗るのが難しいです。

深澤さん そうかもしれません。はみ出してもいいので、丁寧に塗ってください。

手づくり部 マグカップは、どうすればいいですか?

深澤さん 接着した線に沿って塗ってください。あえて太くしてもかまいませんよ。

手づくり部 かなり手先の器用さが求められる作業ですが、頑張ります!

手づくり部 ところで、コレは何でしょうか?

深澤さん 広い範囲を塗ることができる「漆刷毛(うるしばけ)」です。昔は、人の髪の毛で作っていたんですよ。特に海女さんの髪の毛が良いとされていました。潮風に当たって油分が抜けているので、漆がしみ込みやすいからです。

手づくり部 今はもう、髪の毛で作られていないのですか?

深澤さん 髪の毛で作る職人はいます。ただし食生活の変化のせいか、現代人の髪の毛からは良い刷毛は作りづらいそうです。
 

金継ぎ人気は、物に対する愛着の表れ

手づくり部 ちなみに、金継ぎ教室の生徒さんや、ワークショップの参加者には、どのような方が多いですか?

深澤さん 以前は、ご年配の主婦の方が多数でしたが、最近は、若い女性も増えてきました。皆さん、思い出の食器を持参してお越しになります。ある方は、上京した時に実家から持参し、ずっと使い続けてきた食器を、破損した後も大切に保存されていたとのこと。東京で頑張ってきた証しとして捨てられなかったようです。

手づくり部 いい話ですね。近年、金継ぎが注目されている実感はありますか?

深澤さん はい。雑誌やテレビで取り上げられることが増えましたし、専門書も多く発行されるようになりました。

手づくり部 どういうところが、人々の興味・関心を引くのだと思われますか?

深澤さん 東日本大震災の影響が大きいと思います。簡単に物が手に入る今の日本では、器が破損したら買い換えた方が経済的です。けれど3.11を境に、お金を出せば買える物は案外もろくて、反対に、人とのつながりや思い出はかけがえがないことが認識されました。心を満たしてくれることって、自分の外側にあるのではなく、自分自身の内側にあることに、あらためて気付かされたのかもしれません。

手づくり部 その表れの一つが、自分の身近なところにある器を直す「金継ぎ」なのですね。

深澤さん はい。自分の手元、足元を見つめ直した時、器という、何げない日常の記憶が蓄積された物があった。そこにじっくり向き合う時間に価値を見いだしているのかなと思います。

手づくり部 今回、いろいろと考えさせられる話をお伺いしました。

深澤さん まだ、大切な作業が残っていますからね。漆が乾き始める頃合いを見て、金粉を蒔かないといけません。

手づくり部 そうでした!(vol.3に続く)

 

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講師:深澤勇人
東京芸術大学工芸科漆芸専攻卒業後、同大学文化財保存修復彫刻研究室技術スタッフとして仏像の修復などに携わる。東京国立博物館にある修復所で漆工芸品の制作や、全国各地の寺社等における漆塗りや宝物制作に参加。漆芸家、金継ぎ作家として活動する傍ら、ウェブサイト「金継ぎ図書館 鳩屋」を主宰。金継ぎに関する指導、普及に努めている。
http://hatoya-f.com/

M0000OG1659(2017.07新)

スマイルすまい編集部

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