吉本ばななと稲垣えみ子 対談「生きる楽しみ、生活の楽しみ その4」


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生きる楽しみ、生活の楽しみ その4

「スマイルすまい」の“ボクとワタシの「幸福論」”に「手を動かす」という多くの方の心を温めたエッセイを書いてくれた吉本ばななさん。そして、同じコーナーにご登場いただいたのがアフロえみ子こと稲垣えみ子さん。実は、互いの大ファンということを聞き、早速対談をしていただきました。やはり、予想通りだったとてつもなく面白いお話をお届けします。

なくても困らないという解放感は最高だ

ばなな 私、ギリシャに行ったときは、太陽が出ている昼間は外出しなかったな。

稲垣 あ、ギラギラし過ぎて

ばなな 現地では、誰も午後は働いてないみたい。アテネとか大都会は違うと思うんだけど。ギリシャの田舎は、朝は何となく起きて、昼は寝ているか、何もしないか。で、夕方になってやっと動き出して、夜中の2時くらいまで働く、みたいな。

稲垣 それってすごく自然だと思う。

ばなな ですよね。とても理にかなっているなと思って。なんで東京の人はあんなに頑張るんだろう(笑)。すんごい夏の暑い時間に、スーツにネクタイで外を歩いていたり。

稲垣 本当そうですよね。

ばなな それに耐えられるなら、どんなことにも耐えられるんじゃないかって私は思うんだけど。多分、そういう人にとっては、私と耐えられることの基準がきっと違うんですよね

稲垣 私は、そこには思考停止の問題もあると思う。夏は暑いからクーラーのスイッチをピッ、これ常識、みたいな。本当にそこまでしなきゃいけないのかとか、いちいち考えないじゃないですか。とにかく夏の電車は涼しい、喫茶店は涼しい、それが普通になっている。

ばなな まあ涼しいからね。暑い夏の日本では、建物の中だったらね。

稲垣 二者択一的な“乱暴さ”に、みんな慣れてしまっているんですよね。その中間があることとか、夕方の涼しさとかを考えない。暑かったり寒かったりしたら、即対抗措置をとる。自分もずっとそうでしたけど、「それっておかしいかも」と気付いてしまうと、全てのことに、どうもだまされていたような……。

ばなな 稲垣さんが洞窟に住む日も遠くはなさそうですね(笑)。以前、うちの事務所で働いていたスタッフが、家では冷暖房を使わず、全て炭火で調理する人で。すごく普通に楽しそうに暮らしていて、いいなって思っていました。でも事務所では、その人が来たから冷暖房を止めるとかもしなかったし。そういう緩い関係でいいんじゃないかなって。

稲垣 この生活を始めて以降、「稲垣さん、どうして東京にいるんですか?」って何度も聞かれるんです。それも二者択一的な気がするんですよね。私としては、都会だろうが田舎だろうが同じことをするだけなんですけど。

ばなな 私も田舎に行くというのは、違う気がする。仕事も滞るしね。でも、行きたくなったら、稲垣さんは行くんだろうな。

稲垣 そう思います。今、田舎に行きたいとか、東京にこだわっているとか、どっちでもなく普通に生活しているだけなので。

ばなな 一人の人間が好きなようにやっていることに関して、本当に自由にさせてあげてほしいって、誰に対しても私は思います。ただ、田舎に行ったら、軽トラは買わないと!(笑)。

稲垣 そうですよね。行ったら行ったで、知らなかった必要性がたくさん出てくると思います。今、お風呂は銭湯なんですけど、銭湯に歩いて行けるのは東京だから。
実は、東京だから今の暮らしって成り立っているところがたくさんあって、人が密集して住んでいるから近所のおばあちゃんが物をくれたりする。誰かが送ってきた、自分でおすし作ったって。
私、近所の人にかまってもらうって、この年になって初めて体験しました。そもそも家に何もないので、外に出ていかないと生活が成り立っていかないんですよね。
新入社員のときと同じくらい小さな部屋に住んでいますが、これまでで一番大きな家に住んでいる感覚があります。お風呂まで歩いて3分。どんだけ広い豪邸に住んでいるんだ私(笑)、みたいな。

ばなな あ、でもそんな感じ分かる。いったん本気でそう思っちゃえば快適なんだよね。

稲垣 今では、お風呂屋さんとか、近所の酒屋兼コンビニの老夫婦とか、カフェやっているご主人とか、準家族的な感じです。その人たちに好かれたいと思うので、積極的にお金を使うし、物も持っていく。そうするとそれ以上のお返しがきたりする。
『ぼくはお金を使わずに生きることにした』の著者、マーク・ボイルじゃないですけど、お金を使いつつも、貨幣不要の経済も並行して成り立っている。そこにすごい安心感があるんですよね。
お金がなくても老後はきっと大丈夫って思う。この生活を始めたことで、将来の恐怖がほとんどなくなりました。

ばなな 今のままで、かなりのところまで行けるんじゃないですか? 
東京だからできているっていうのは本当にあると思う。まあ田舎は田舎のつながり方があって、白菜だけ25個もらった、とかね(笑)。
違うけれど似たところがあるから、自分にとって良いかげんのところを見つけたいですね。

稲垣 田舎であれば、食べていくことはもっとタダに近づいていく気がします。でも、みんな、お金と電気の存在を神様みたいな感じに考えていて、それがないと生きていけないと恐れている。そこは変わらないし、かなり根強いですね。

ばなな まあ、私たちもそう教わってきたしね。

稲垣 そうなんですよ。だからこそ、そこから抜け出せた解放感たるや、本当にすごかったです。 

ばなな うん、多分そうでしょう。半端ない解放感だと思う。

 

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吉本 ばなな
小説家 1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30カ国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『人生の旅をゆく3』(NHK出版)『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』(幻冬舎)がある。noteにてメルマガ「どくだみちゃん と ふしばな」を配信中。『すべての始まり どくだみちゃんとふしばな1』『忘れたふり どくだみちゃんとふしばな2』(幻冬舎)として書籍化されている。

稲垣えみ子
元新聞記者 1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、朝日新聞社に入社。大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て、朝日新聞論説委員、編集委員。アフロヘアと肩書のギャップがネット上で大きな話題となった。2016年1月、退社。同年4月、テレビ番組『情熱大陸』でアフロヘアや超節電生活をクローズアップされ一躍注目される。著書に『死に方が知りたくて』(PARCO出版)、『震災の朝から始まった』(朝日新聞社)、『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』(朝日新聞出版)、『魂の退社』『寂しい生活』(共に東洋経済新報社)、『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)がある。

M0000OG2357(2017.12新)

スマイルすまい編集部

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