吉本ばななと稲垣えみ子 対談「生きる楽しみ、生活の楽しみ その1」


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生きる楽しみ、生活の楽しみ その1

「スマイルすまい」の“ボクとワタシの「幸福論」”に「手を動かす」という多くの方の心を温めたエッセイを書いてくれた吉本ばななさん。そして、同じコーナーにご登場いただいたのがアフロえみ子こと稲垣えみ子さん。実は、互いの大ファンということを聞き、早速対談をしていただきました。やはり、予想通りだったとてつもなく面白いお話をお届けします。

小説『キッチン』と“叶姉妹”のこと

ばなな 稲垣さんとは、はじめまして、なのですが、稲垣さんが会社を辞められてから出された著書はほとんど読んでいるので、初めて会った気がしないんですよね。しかし、会社を辞めるの大変だったでしょう。勇気が要りますよね。

稲垣 いやいや、そんなことは(笑)。それより私にとっては、一生のうちに吉本ばななさんと直接お会いできるなんてまったくの想定外だったので、今日は本当にうれしい日になりました。会社を辞めてよかったです(笑)。

ばなな 私たちって、1歳違いなんですね。ということはお互いバブルを駆け抜けた世代です。

稲垣 私が『キッチン』(1988年発行)を読んでいたときって、当たり前ですが書かれた吉本さんも私と同じくらい若かったっていうことでしょう? 今さらですが、そのことにすごくビックリしました。
先日、『キッチン』を何十年かぶりに読み返して感慨深かったのが、登場人物のえり子さん(主人公・桜井みかげが居候する田辺雄一の家の母。実は元父でトランスジェンダー)が、最新の家電製品をいろいろ買ってくるのが趣味っていうところでした。

ばなな 時代ですよね。えり子は、男から女になった設定だし、家事のやり方が分からないから家電買ってなんとかする、みたいな感じの背景かなと思います。

稲垣 新しいジューサーを買ってきたから、おいしいジュースが作れる!っていうワクワク感がすごく伝わってきました。そういう時代だったんですよね。
でもえり子さんって、そういうバブル的な生活を楽しみながらも、そういう自分を自分で笑っちゃうみたいなクールな部分もしっかり持っている。
私が最初に『キッチン』を読んだとき、その両方が分かるっていうか、かっこいいというか、心地よくスッと入ってきた感じがあった。でも今の時代の若い人って、もうそこを分けて考えられないと思うんですよ。

ばなな 便利なものが十分、当たり前にそろっている時代に育ってしまったからね。

稲垣 はい。そんなことを思いながら、『キッチン』、あらためて楽しく読ませていただきました。

ばなな ありがとうございます。

稲垣 ちなみに、吉本さんは自分の中に“叶姉妹”が住んでいるって常々おっしゃっていますけど、あれってどういうことなんですか?。

ばなな まだどこかしらに、バブリーな自分が残っているんですよ。昔からヒッピー的な友人が周りにけっこういるけど、とにかく極端な人が多過ぎてね。例えば、火が通ってないローフードしか食べないとか。そんな友人から食事に招かれて一日過ごした後に、あー、やっぱり自分の中には叶姉妹がいるなって。

稲垣 そういう人と自分を比べちゃうと、っていう意味で?

ばなな 早く一人になって、ホテルのバーでカクテルを飲みたいなあって(笑)。ヒッピーとバブリー、どちらがいい悪いではなくて、両方を自分の中に持っていたいと思っているんですけどね。

稲垣 なるほど。そういったすごくピュアな人たちをたくさんご存じだからこそ、そっちだけっていうのはむしろ危険だと感じるんですかね。

ばなな 私はとにかく、自分も相手も健康で元気な状態が好きだから、彼らがちょっと健康に見えないっていうのが一番大きいかも。

稲垣 へえ。そこまでやっていて不健康なんですか! なんか面白いというか、不思議です。

ばなな 食べ物に気を付けよう、地球環境を大切にしたいとか、さまざま頑張っているのに、健康に見えないのは一体なぜ? なんというか、はつらつ感がない。生きているのがやっとです、みたいな顔色の人も多いんですよね、正直言って。

稲垣 栄養が足りないっていうことなのかなあ。

ばなな うーん、それもあると思うけど(笑)、そもそも心が楽しんでいないんじゃないかな。

稲垣 そうか。節制しなければいけないことが多過ぎるから。

ばなな もちろん、楽しそうなすてきな人もたくさんいますよ。ただ、ぜいたくと節制の境目については常に私も考えていて、だからこそ稲垣さんが著書で書かれていることはよく理解できるんでしょうね。どういう時代に育って、どういう“洗脳”を受けていて、そこからどう脱していったかという感覚が、自分とすごく似ているんですよ。

 

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吉本 ばなな
小説家 1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30カ国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『人生の旅をゆく3』(NHK出版)『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』(幻冬舎)がある。noteにてメルマガ「どくだみちゃん と ふしばな」を配信中。『すべての始まり どくだみちゃんとふしばな1』『忘れたふり どくだみちゃんとふしばな2』(幻冬舎)として書籍化されている。

稲垣えみ子
元新聞記者 1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、朝日新聞社に入社。大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て、朝日新聞論説委員、編集委員。アフロヘアと肩書のギャップがネット上で大きな話題となった。2016年1月、退社。同年4月、テレビ番組『情熱大陸』でアフロヘアや超節電生活をクローズアップされ一躍注目される。著書に『死に方が知りたくて』(PARCO出版)、『震災の朝から始まった』(朝日新聞社)、『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』(朝日新聞出版)、『魂の退社』『寂しい生活』(共に東洋経済新報社)、『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)がある。

M0000OG2354(2017.12新)

スマイルすまい編集部

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